Lettre de Famme Fatala

もしも僕が僕を取り戻すことができたら

そのときは旅に出ようと思う。

パリからテキサスへ。

ライ・クーダーのアルバムを持って

旅に出ようと思う。

「あれじゃないか?
 普通、取り戻すために旅にでるんじゃないのか?」

違うんだ。

僕は取り戻すことができた

そのときに

旅に出ようと思うんだ。

「でもなんでまたパリからテキサスへ?」

別にライ・クーダーのアルバムを持って行くからといって

パリからテキサスを選んだわけじゃないよ。

まさか、キーウェストに行くわけにもいかないだろ。

だからといって、ライオン猟りをするほど

良い趣味を持ってるわけじゃないし

別に、魚釣りにも興味ないよ。

ただ、何かを失う場所としては

パリほど適した場所はないと思ってさ。

「せっかく手に入れたのに、また失うのかい?」

手に入れたものが、僕を幸せにしてくれるとは限らないよ。

取り戻した自分が、自分の望む自分であるとも限らないから。

だから、僕はパリに失いに行くんだ。

「ふん、まぁ、なんでもいいけどさ。
 じゃぁ、なんでテキサスなんだ?
 まさか荒野が見たいとか言うのはやめてくれよ。
 お前の好きなスパゲッティならイタリアが原産だぜ。」

知ってるよ。

言われなくても、そいつだけはよく知ってる。

あぁ、素晴らしき我が人生の大切な1ページかな!

てか、まぁ、荒野が見たいって言うのは

遠からずなとこもあるんだけど

そんな理由じゃないよ。

ほら、何かを失ったらセンチメンタルな気持ちになるじゃない?

「何がセンチメンタルだ、気持ち悪い。」

おっしゃる通りで。

まぁ、でもそんな気分に

いつまでも浸れるほど、僕も若くないし

失ったことを嘆き悲しむほど

素直な奴じゃないんだ。

僕がテキサスに行きたい理由はさ

いや、言うのも実にくだらないんだけど

そこにアラモがあるからさ。

アラモ砦を見て、

今ここが僕の人生のアラモだ!と

宣いたいんだよ。

「アホすぎて話にならん。
 そんなことをするくらいなら、
 まだ、ヴィム・ヴェンダースを気取られた方が
 好感がわくよ。」

スパゲッティ育ちの僕にそいつは無理さ。

「本当は実録路線育ちのくせに。」

意外とイタリアンだぜ、僕はさ。

ママのミートボールが作れるんだからさ。

「ママがミートボールでも作るのか?」

いいや。スコセッシから教わったんだよ。

「実にくだらない。」

あぁ、本当に。実にくだらない話ってことだよ。