ショート。

『なぁ、あんた。十字路の悪魔って知ってるか?』

「あぁ?クロスロードの悪魔だぁ?
 なんだい突然?」

『あれだよ。古いお伽噺みたいなもんさ。
 あるブルースマンがギターの腕と引き換えに
 魂を売り渡したって言う。』

「おい、おい、大丈夫かい兄ちゃん。
 顔が真っ青じゃねぇか。
 とりあえず落ち着きなって。
 おい、おやじ。
 こいつに一杯やってくれよ。
 な〜に、銭の心配ならしなさんな。
 今日の俺は付いてるんだ。」

『お、俺は人生に希望なんてもっちゃいないんだ!
 だから、だから、俺も、俺も。
 そうさ、単なるお伽噺なんだ。
 俺だって、そう思ってたんだ。
 俺だって・・・・。』

「はっはっは。
 兄ちゃんもブルースマンなのかい?
 とりあえず、飲みなって。
 乾杯しようや。」

『あぁ、すまない。
 いや、もう大丈夫だ。
 俺は冷静さ。そうさ。俺は冷静なんだ。』

「で、一体何があったんだい。
 あんた顔が真っ青だったし
 まぁ、なんだ、少し異常だったぜ。」

『会ったんだ。』

「会った?誰に?」

『わからない。』

「わからないだって?そいつはおかしいじゃないか?」

『すまない。自分でもわからないんだ。
 俺は、ほんの少し・・・そう、あいつみたいに
 ギターが弾けるようになりたかった。』

「あいつ?」

あいつだよ、あぁ、なんだった?
 くそっ!頭がこんがらっちまってるぜ。』

「なんなら、もう一杯飲むかい?」

『いや、大丈夫だ。
 俺は、あそこで会ったんだ。
 そいつに会ったんだ。
 俺はそれを望んでいたんだ。
 こんなくそったれな人生よりも
 ただギターを、そうだ、そうさ。
 俺も魂を売り渡したってよかったんだ。』

「そいつは物騒な話だな。
 おやじ俺にもう一杯くれ。
 強いやつだ。」

『俺は、俺は、あいつのように
 ギターを弾きたいと、そう言ったんだ。
 こんなクソみたいな魂なら
 おまえにやったっていいって。
 そしたら、そいつは何て言ったと思う?』

「命を大事にかい?
 あはははは。
 なぁ、おやじ、こいつは傑作じゃないか。
 あはははは。」

『必要ないだ。
 そいつは俺に必要ないって言ったんだ。
 それから、それから、
 あぁ、信じられるもんか!
 そんなことがあるわけがないんだ!』

「まぁ、まぁ、落ち着けって。
 必要ないならいいじゃないか。
 それでギターが弾けるようになるなら
 儲け物じゃないか。なっ?そうだろ。」

『違うんだ。違うんだ。
 そいつは俺にこうも言ったんだ!
 俺の目を見てみろ。気づかないのか。って。
 信じられるもんか!
 そんなバカなことがあるわけないんだ!』

「兄ちゃんの目かい?
 どれどれ俺にも見せてくれよ。
 ・・・あぁ?なんだ俺は酔っぱらってるのか?
 くそっ、目が霞んで見えないぞ。」

『同じなんだ。
 くそったれが!俺があいつと同じなんて!
 なんてこった、なんて・・・くくく。
 あはははははは。
 なんてことだ。なんてことだ。 
 最高じゃないか。あははは。
 くそったれだ。くそったれだ。くそったれの最高だ!』

「兄ちゃん、あんな少し頭が逝かれちまってるぜ。
 あんたの為に俺が神様に祈ってやるぜ。
 これだ。これが俺の神様さ。
 こいつが地上から天国への片道切符ってやつさ。
 へっへっへ。
 俺も頭が狂ってるみたいだな。はっはっは。」

『あぁ、そうかもしれないな。
 ありがとう。気持ちが楽になった。
 お礼をさせてくれよ。』

「ふっ。そんなのいいってことよ。
 言ったろ。今日の俺はついてたと。
 祝福はわかちあうもんさ。ははは。」

『そうだな。だが、俺の気持ちも受け取ってくれ。
 あんたにどうしても伝えておきたいんだ。』

「なんだい?迷える子羊よ。
 私に何を伝えたい?」

『あんた・・・もうすぐ死ぬぜ。』

「くっくっくっく。
 そいつはヘビーな展開だな。
 あははははは。
 兄ちゃん、そいつは最高にヘビーな展開だ。
 あんたやっぱり頭が狂ってるよ。」

『あぁ、どうやらそうらしい。』

「おやじ。金は置いとくぜ。
 釣はチップだ。
 おやじにも俺からの祝福だ。
 それに、兄ちゃんに言わせれば
 俺にもう金は必要ない。
 なんたって、もうすぐ死ぬんだからな。
 くくくくっ。じゃぁな。」

車のブレーキ音。ドンという鈍い音。

『おやじ、救急車だ・・・いや、もう遅いか。
 ふふふ。最高にくそったれな夜だと思わないか?
 そうさ。最高さ。最高だぜ。』

え〜と、すいません。

今から出かけるものですから。

はい。特に意味とかないですよ。

うん。でも眠い。
King of Delta Blues